日本文藝學會創立趣意書
明治から大正昭和にかけての国文学界の主流は、文献学的研究において認められ、そこでは学問に対する正確な対象認識もなく、曖昧な国語国文学という言葉が公認されている状態であります。この国文学という学問の世界は、学的対象が明確に規定されず、雑多な研究を行なう前近代的傾向がみられるのであります。文献の研究が国文学研究の中心であると考えたり、言葉の解釈が国文学の解明であるとしたり、唯物史観による歴史究明に国文学が用いられたり、全く雑多な学問的世界の中に国文学研究があるように思われます。国文学に関する多くの学会が作られておりますが、そこでの研究は文献の研究、思想の研究、言語の研究、歴史の研究または文学の研究などが、国文学研究の名において行なわれております。国文学というものが雑学の名稱であるならばそれでよいと思いますが、少なくとも近代科学の中にあって、学の成立を考えその対象を認識することが可能であるとすれば、私達はこのような対象認識のない雑多な研究の中に止まってよいでしょうか。既に国文学という言葉が極めて曖昧であって、言語表象による芸術を指すのが、それともその言語的芸術を研究する学的世界であるのか不明でありまして、この言葉から学的対象認識は全く認められません。このような対象認識のない言葉を用いていることに、国文学の宿命的な欠陥が認められるのであります。私達はこの国文学の宿命を切断して、新しい近代的学問の中で学的世界を築く必要はないでしょうか。
このような雑学的にして曖昧な国文学という言葉をやめて、日本文芸という世界を新らしく確認し、これを対象として研究する学問が日本文芸学として提唱されてから、既に三十年の歳月が流れています。日本文芸学と日本文芸の関係において、学と対象の関係が明白に認識されていますが、依然として国語国文学という曖昧な言葉が学的世界の中で行なわれています。私達はこのときに当って、国語国文学という言葉を解体して日本文献学と日本語学と日本文芸学の三つの学的世界を認識し、これらの学問を中心として研究する学会が、日本文献学会と日本語学会と日本文芸学会として新らしく創立されることを希望しております。そして日本文芸を文芸として認識し、これを学的に研究する学会を日本文芸学会として創立したいと思います。これらの三学会は、密接な連繋の中にその学的世界の主体的自律性を純粋に確保しながら発展して行くべきであると思います。文献を研究することは日本文芸学の領域ではなく、それは日本文献学の領域であり、文献の解釈は日本語学の領域であります。この明白な論理を宿命的な頑迷さをもって蔽うことなく、近代科学の光の中で雑学的な国文学から解放され、文献を研究する者は日本文献学会で、文献の言葉を研究する者は日本語学会で、そして日本文芸を文芸として研究する者は日本文芸学会で、真正な学的研究を行ないたいと思います。
この日本文献学と日本語学と日本文芸学は極めて密接な関連の中にありますが、しかし密接な関連は同一性をもって置き代えられるものではありません。これら三学会は密接な関連性を持ちながらその主体的自律性を維持し、学の発展を期すべきであり、いずれも重要な学的世界であります。私達はこのような学的認識の場において日本文芸の学的研究を行なう日本文芸学会の創立を切望し、日本文芸の学的研究に熱意を持つ全国の有志各位と相協力して、日本文芸学会の正常な発展を庶幾するものであります。従来の国文学の研究の中から文芸としての研究領域を純粋に考え、真の日本文芸の研究を行ないたいと切望しております。日本文芸の学的研究は一個人や一学派の方法論に終始するのではなく、日本文芸を対象とする普遍的な研究方法によるもので、そこでは色々な方法論が可能であるところに真の日本文芸研究の学会が存在するものと思います。
この日本文芸学会創立の趣旨をよく理解され、真実な私達の学会として永遠の生命あらしめたいと願うものであります。来る十一月九日(土)午後一時三十分より大阪駅前、新阪急ビル大会議室において、この日本文芸学会の創立総会を開きたいと思います。日本文芸の学的研究に情熱を持たれる方々が全国各地より参加され、その学的良心と学的情熱の中に日本文芸学会の意義ある創立を完うすることができますよう切に願うものであります。
昭和三十八年十月一日
日本文芸研究者各位
会則
日本文芸学会会則
第一章 名 称
第 一 条 本会は日本文芸学会と称する。
第二章 目的と事業
第 二 条 本会は会員相互の協力によって日本文芸の学的研究を行い、併せて会員相互の研究連絡と親睦をはかることを目的とする。
第 三 条 本会は前条の目的を達成するため下記の事業を行う。
一 会員の研究発表を目的とする大会の開催
二 本会の組織運営について審議する総会の開催
三 会員の共同研究を目的とする研究部会の開催
四 日本文芸研究書の刊行
五 機関雑誌の発行
六 学術講演および講座の開催
七 その他必要と認められる事業
第三章 組織と運営
第 四 条 本会は下記の者を以て組織する。
一 日本文芸を文芸として学的に研究する者。
二 会員の推薦あるもので理事会の承認した者。
第 五 条 本会を運営するため下記の役員を置く。
一 代表理事 一 名
二 理 事 若干名
三 監 事 二 名
第 六 条 理事および監事は総会で選任し、理事は互選により代表理事を定める。なお役員の選挙については別に細則を定めることができる。
第 七 条 代表理事は本会を代表し、会務を統理する。
第 八 条 理事は理事会を組織し、本会の運営を行う。
第 九 条 代表理事は本会の事務を担当する委員若干名を委嘱することができる。
第 十 条 本会に編集委員会を設ける。編集委員会の運営は別に定める細則による。
第十一条 理事の互選により代表理事の外に常任理事若干名を置く。
代表理事および常任理事によって常任理事会を組織する。常任理事会は理事会の委任をうけ本会の運営について常時執行の任にあたる。
第十二条 理事会は代表理事が必要と認めた場合および三分の一以上の理事の要求があった場合開催される。常任理事会は代表理事が必要と認めた場合および常任理事の過半数の要求があった場合開催される。
理事会および常任理事会は代表理事が議長となる。
第十三条 監事は本会の運営及び会計を監査する。
第十四条 本会の役員の任期は三年とする。
補欠または増員により選任された役員の任期は、前任者の残任期間とする。
役員は、その任期満了後でも後任者が就任するまでは、なおその残務を行う。
第十五条 本会は必要に応じて研究部会を設けることができる。研究部会は別に定める細則による。
第十六条 本会は必要に応じて地区部会を設けることができる。地区部会は別に定める細則による。
第十七条 会員は本会の諸事業に参加し、本会の発行する機関雑誌の配布を受けることができる。
第四章 会計と基金
第十八条 本会の経費は入会金・会費・寄付金又は補助金によって支弁する。
第十九条 本会の入会金・会費は別にこれを定める。
第二十条 本会の予算は理事会より提案され、総会の議決を経ることが必要である。
第二十一条 本会の決算報告は監事の監査を受け理事会より提案され、総会の議決を経ることが必要である。
第二十二条 本会は入会金及び有志の寄附により基金を所有することができる。
第二十三条 本会は有志の寄附及び事業収入等により特別会計を有し、理事会の審議を経て会員に研究費を支給することができる。
第二十四条 本会の会計年度は毎年四月一日に始まり翌年の三月三十一日に終わる。
第五章 附 則
第二十五条 本会の事業およびその運営を明確にするために別に運営細則を設けることができる。
細則は理事会において定め、次の総会で承認を得ることが必要である。
第二十六条 本会の会則の改正は理事会より提案され総会の議決を経なければならない。
第二十七条 本会は事務局を代表理事の所属する機関内に置く。
細則
第十条 細則
一、日本文芸学会編集委員会(「以下」編集委員会)は、機関誌『日本文藝学』の編集を担う。
二、編集委員会は、編集委員長1名(常任理事)、編集委員6~8名程度で構成する。
三、編集委員長・編集委員の任期は、3年とする。ただし、再任は妨げない(上限6年)。
四、編集委員長は常任理事会で互選し、編集委員は、常任理事会で候補者を選任する。
五、編集委員長・編集委員は、理事会、総会に報告する。
六、『日本文藝学』の投稿規程、査読方法などの詳細は別に定める。それらを変更する場合は、常任理事会、理事会の議を経て総会で承認を得る。
第十九条 細則
一、会費は年額六千円とする。学生会費は年額四千円とする。ただし入会金は千円とする。
二、学生会費に該当するものは、学部生、大学院生とする。博士課程後期課程修了者は終了後三年間までとする。学生会員は在籍届を提出することとする。
1963年11月9日より実施
1998年6月28日一部改訂
2014年6月29日一部改訂
2023年6月24日一部改訂
論文賞規約
日本文芸学会論文賞規約
第一条(賞の目的)
日本文芸学会論文賞(以下「本賞」)は、日本文芸の研究において、優れた成果をあげた論文の著者に、日本文芸学会が授与するものとし、受賞者の今後の研究を奨励するとともに、日本文芸研究全体の発展に資するために設置される。
第二条(賞の対象と期間)
本賞の対象は、当該年度の学会機関誌『日本文藝学』に掲載された論文とする。
本賞の対象者は、日本文芸学会の会員であり、『日本文藝学』への投稿資格を満たし、受賞対象論文発表当該年度(四月一日から翌年三月三十一日まで)に四十歳以下であること、もしくは大学院入学後十二年以内(授賞前年度三月三十一日現在)とする。
第三条(選考委員会)
本賞の選考をするために、日本文芸学会論文賞選考委員会を設ける。
選考委員会の内規については、別にこれを定める。
第四条(賞の授与と公表)
本賞受賞者には、賞状を授与する。
受賞者は、日本文芸学会総会において表彰され、かつ『日本文芸学』誌上などにおいて公表される。
第五条(その他)
この規約に定めるもののほか、実施に関し必要な細則事項は、日本文芸学会事務局および日本文芸学会論文賞選考委員会が定める。
附則
本賞は、二〇二五年度刊行の『日本文藝学』掲載論文から適用される。
本規約は、二〇二四年七月七日から施行する。
日本文芸学会論文賞選考委員会内規
第一条(根拠規程)
日本文芸学会論文賞規約第三条に基づき、日本文芸学会論文賞選考委員会(以下、「委員会」)を組織する。
第二条(委員長および委員)
一 委員会は、委員長および委員若干名で構成される。
二 委員長は、常任理事の中から互選により、選出する。
三 委員は、委員長が常任理事および理事の中から選出する。委員長、委員は、常任理事会の信任を得る。
四 選考委員と編集委員とを兼務することはできない。
第三条(任期)
委員長、委員の任期は、三年とする。
第四条(選考方法)
選考は委員長の運営のもと、委員会の協議により行う。
第五条(選考経過ならびに結果の公開)
委員会は選考経過ならびに結果を、総会及び『日本文藝学』誌上に公表する。
附則
本規程は、二〇二四年七月七日より施行する。
日本文芸学会
投稿規定
『日本文藝学』投稿規程
1、日本文芸学会の会員は、『日本文藝学』に論文を投稿することができる。
2、原稿は日本語で作成されたもので、原則として縦書き表記に限る。
3、同一号に複数の論文等を投稿することはできない。他誌との二重投稿もできない。他誌(外国語誌を含む)に投稿中のもの、掲載予定のものも投稿することはできない。また、本誌掲載後(投稿中も含む)は他誌への投稿を禁じる。
4、論文は未発表のものに限る。リポジトリ等で公開された博士論文の一部をそのまま投稿することはできない。
5、『日本文藝学』には、3号連続以上または、過去5号のうちに3回以上の掲載があった者は投稿することができない。
6、書式は以下のとおりとする。
(1)論文は総文字数16000字(タイトル・図版・注を含む)以内を原則とする。また、注も本文と同じ行数・字数とする。図版等については、投稿者が許諾の責任を負うこととする。
(2)原文の引用は、原則的に底本どおりとする。ただし新字のある漢字はなるべく新字を用い、注の記号・配列なども本誌のスタイルに合わせる。
(3)投稿は、ワープロで作成したテキストデータに限り、電子データで送る。
(4)投稿者は、連絡先(氏名・郵便番号・住所・電話番号・メールアドレス、氏名にはアルファベット表記をつける)と所属(勤務先、大学院など)を明記する。
7、〆切 11月20日 年1回
8、採否は日本文芸学会編集委員会が、審査基準にもとづき決定する。
〈著作権〉について
『日本文芸学』掲載論文の著作権は投稿者に帰属しますが、投稿者は当学会に対し包括的に当該論文の利用を許諾するものとします。したがって、投稿者の意思に基づき自由に二次利用が可能ですが、初出の情報を表示していただくようお願いいたします。また、投稿者が被相続者となった場合、その著作権相続者も、前記の条件を引き継ぐものとします。
日本文芸学会
査読規定
『日本文藝学』査読規定
『日本文藝学』査読方法・審査基準・採否およびその通知
『日本文藝学』に投稿された論文は、以下の方法で審査し採否を決定します。また、採否の結果は、編集委員会より投稿者に通知します。
〈査読方法〉
論文は、原則として2名以上の委員が査読し、編集委員会での審議を経て、当該論文の採否を決定する。査読委員は、研究対象の専門性を考慮して編集委員から選任する。また、編集委員会が委嘱した査読委員が担当することもある。掲載に際しては、投稿者に加筆・訂正を依頼する場合がある。
なお、投稿規程に違反した投稿論文は査読対象としない。
〈審査基準〉
『日本文藝学』に掲載するにふさわしい論文であることを前提とし、以下のいずれかに該当するものであることを基準とする。
(1)当該領域の研究史をふまえ、新しい読解・新しい解釈を開示する論文。
(2) 新しい研究領域・新しい研究方法を提示する論文。
(3) 研究上有益な資料を発掘し、新しい知見を明示する論文。
(4) その他、研究の発展に貢献する論文。
〈採否およびその通知〉
A:採用(ただし字句・表現などの修正を求める場合がある)。
B:改稿を求めるコメントを付し、当該号への再投稿を促す(再審査を行う)。
C:不採用(不採用の理由を付す)。
日本文芸学会編集委員会
(2023年9月24日 日本文芸学会事務局)
役員一覧(敬称略)
代表理事:山口直孝
常任理事:今野哲・佐藤裕子・瀧本和成・外村彰・長原しのぶ・西尾宣明・松井貴子・村田好哉・森田雅也
理 事 *は常任理事
【北海道・東北・関東地区】:今野哲*・佐藤裕子*・松井貴子*・山口直孝*
【信越・中部地区】:畑恵里子
【近畿地区】:重松恵美・高橋和幸・瀧本和成*・奈良崎英穂・西尾宣明*・野村倫子・深町博史・細川正義・箕野聡子・村田好哉*・森田雅也*・宮薗美佳
【中国・四国・九州地区】:金戸清高・古浦修子・佐藤茂樹・ 島達夫・外村彰*・長原しのぶ*
監 事:安達原達晴・吉川望
日本文芸学会事務局
入会について
登録情報変更について
事務局までご連絡ください。
バックナンバー申込み
ご注文は前金にて日本文芸事務局へお願い致します。振替をご利用ください。
※各巻定価¥1,500(税別)、氏名・ご住所と必要巻号/部数をメールアドレスまでご連絡ください。
会費等納入先
郵便振替番号・加入者名
00970-8-6857 日本文芸学会
年会費
一般会員 ¥6,000- / 学生会員 ¥4,000-